近年、働き方が多様化する中で「パートタイマー」として働く人は増えている。その一方で、契約にない業務を押し付けられたり、過剰な責任を負わされたりする「やりがい搾取」という問題も顕在化している。特に非正規雇用者は立場が弱く、不当な扱いを受けやすいのが現状だ。本記事では、パートタイマーが持つ基本的な権利とやりがい搾取の実態、対処法について解説する。
パートタイマーの基本的な権利とは
パートタイマーとは、フルタイム正社員より短い時間で働く労働者のことを指す。主に子育てや学業、家事との両立を目的に選ばれる働き方である。
労働基準法では、パートタイマーも正社員と同じ「労働者」として扱われる。そのため、最低賃金、労働時間、休憩、残業代、有給休暇といった権利は保障されている。特に「時間契約」で働く点が特徴で、基本的には契約で定められた労働時間を超えて働く義務はない。ただし、職場の就業規則や36協定に基づいて正当な残業命令が出る場合もあり、その際には割増賃金が支払われなければならない。
また、2020年4月に施行された「同一労働同一賃金」により、正社員とパートの待遇差を合理的に説明できなければならないと定められている。これは「すべてを同じにする制度」ではなく、不合理な格差を禁止する制度である。仕事内容や責任が同じであれば、手当や教育訓練の機会を不当に差別されることは許されない。
「やりがい搾取」とは何か
やりがい搾取とは、労働者の「責任感」や「熱意」を利用して、不当な労働を強いることを指す。具体的には以下のようなケースがある。
- 契約時間が終了しているのに「仕事が終わるまで帰るな」と言われる
- 他のパートと比較され「あなたも残って当然」と圧力をかけられる
- 契約外の業務や責任を押し付けられる
- 残業代が支払われないまま長時間働かされる
このような行為は、パートタイマーの権利を侵害するものであり、契約外の業務強要や残業代の未払いは労働基準法違反となる可能性がある。ただし、残業を依頼されても割増賃金がきちんと支払われている場合は、必ずしも違法ではない。
「やりがい搾取」が起こる背景
やりがい搾取が起きやすい背景には、以下のような要因がある。
- 非正規雇用者が「立場が弱い」と思われている
- 職場内に労働法への理解が不足している
- 人手不足でパートに過度な依存をしている
- 「やりがい」や「責任感」を強調する企業文化
特にサービス業や小売業では、顧客対応が業務の中心となるため、「仕事を途中で投げ出せない」という心理につけ込まれるケースが多い。
「やりがい搾取」への具体的な対処法
パートタイマーが不当な扱いを受けたとき、泣き寝入りする必要はない。以下のような対応が有効である。
1. 契約内容を確認し、明確に伝える
自分の雇用契約書を確認し、労働時間や業務内容を明確に把握することが重要だ。その上で、上司や同僚から不当な要求を受けた際は「契約上の労働時間は終了しています」と冷静に伝える。
2. 記録を残す
不当な要求や残業が発生した場合は、日時・内容をメモに残す。証拠があれば後々の交渉や相談に役立つ。
3. 相談窓口を活用する
職場の人事部門や労働組合に相談することが第一歩となる。改善が見られない場合は、厚生労働省の「総合労働相談コーナー」や「法テラス」などの外部機関に連絡するとよい。無料で専門家に相談できる場合もある。
4. 転職や働き方の見直しも選択肢
改善が見込めない職場に固執する必要はない。転職や他の働き方を検討することで、精神的負担を減らせる場合もある。
まとめ
パートタイマーも正社員と同じ「労働者」として権利が守られている。不当な要求をされても、それに従う義務はない。重要なのは、自分の契約内容を理解し、毅然とした態度で行動することだ。もし職場で解決が難しい場合は、労働相談窓口や専門機関に相談することで、安心して働ける環境を取り戻すことができる。