人生の岐路に立った若者たちが、「自分探し」という名目で旅に出ることがある。彼らは未知の地で新たな経験を積み、自己を見つめ直そうとする。しかし、彼らが求める「本当の自分」とは果たして実在するのだろうか。
「本当の自分」という概念は、多くの人々にとって魅力的で、時に慰めとなるものだ。しかし、私はこの「本当の自分」という「もの」が実在するとは考えていない。その理由は、人間という存在が本質的に可変的だからだ。私たちは日々、肉体的にも精神的にも変化し続けている。昨日の自分と今日の自分は、微妙に、あるいは大きく異なっているのだ。
確かに、私たちは自己イメージや自己概念を持っている。これらは自分自身についての認識や理解を形作る重要な要素だ。しかし、注意すべきは、これらが客観的な事実ではなく、あくまで主観的な判断に基づいているということだ。「自分はこういう人間だ」という思い込みは、必ずしも現実を正確に反映しているとは限らない。
心理学の分野では、自分を見失うことを「アイデンティティの危機」と呼ぶ。これは多くの人が人生のある時点で経験する可能性のある、深刻な心理的状態だ。しかし、この危機は、自己を固定的な「もの」として捉える考え方から生じている可能性がある。もし私たちが、自分を常に変化し続ける存在として認識すれば、このような危機から解放される可能性がある。
自己を固定的なものとして捉えるのではなく、常に変化し成長する存在として理解することで、私たちはより柔軟に人生に向き合うことができる。「本当の自分」を探す代わりに、今この瞬間の自分を受け入れ、同時に未来の自分をより良いものにしていく努力をすることが重要だ。