「部下を叱るのが苦手」「叱ると関係がぎくしゃくしてしまう」と悩む管理職は多い。叱ることを避ければ同じミスが繰り返され、生産性が落ちる。反対に感情的に怒鳴れば、部下は萎縮しモチベーションを失ってしまう。つまり、上司に求められるのは「叱る」と「怒る」を区別し、部下との対人関係を損なわずに成長を促す叱り方である。
叱る目的を理解する
部下を叱る本質的な目的は以下の3点に集約される。
- 仕事上の問題点を明確にする
- 同じ失敗を防ぐ
- 部下の成長を促し、組織の成果につなげる
「腹が立ったから」という感情的な理由で叱るのは逆効果だ。叱ることは懲罰ではなく、教育と改善のための手段であると理解することが出発点である。
「叱る」と「怒る」の違いを認識する
- 叱る:事実を基に誤りを指摘し、改善を促す行為
- 怒る:感情を抑えられず相手にぶつける行為
前者は建設的な指導だが、後者は信頼関係を壊すだけである。管理職が意識すべきは、常に冷静に「叱る」を実践することだ。
感情的にならないための工夫
叱る場面で感情を抑えるには準備が必要である。
- 叱る前に一呼吸おき、冷静に言葉を整理する
- その場で怒鳴らず、落ち着いて話せる環境を整える
- 自分の感情を「私は今、苛立っている」と内省する
これらを実践することで、感情的な「怒り」ではなく論理的な「叱り」に切り替えやすくなる。
効果的な叱り方のポイント
プライバシーを尊重する
人前で叱ると、部下は恥をかき、信頼を失いかねない。
叱るときは必ず2人だけの空間で行い、対話の場として設定することが重要である。
論理的に説明する
- 何が問題だったのか(事実)
- どんな影響があったのか(結果)
- どう改善できるのか(対策)
この3点を明確に伝える。
行動にフォーカスする
「君はだめだ」と人格を否定するのではなく、「この手順を省略したことがミスにつながった」と行動に焦点を当てる。
具体例を示す
- NG例:「なんでこんなこともできないんだ!」
- OK例:「この資料の数字に誤りがあった。確認手順を設ければ防げるよ」
言葉の選び方ひとつで、相手の受け取り方は大きく変わる。
フォローアップを忘れない
叱った後は「改善のチャンス」を与えることが大切だ。
「次はどう進めてみようか」と質問を投げかけ、自主的に改善策を考えさせると学びが深まる。
部下のタイプ別・叱り方の工夫
若手社員の場合
経験が浅いため、失敗は学びのチャンスと捉える。叱るときは改善方法を一緒に考え、自信を失わせないことがポイント。
中堅社員の場合
責任ある立場を任されているため、期待値を明確に示す必要がある。「次の案件ではこの点をリーダーとして意識してほしい」と伝えると効果的。
ベテラン社員の場合
プライドが高く、表立って叱られることを嫌う傾向がある。敬意を払いながら指摘し、「この経験を後輩に共有してほしい」と役割を与えると建設的になる。
よくある失敗例と改善策
- その場で感情的に怒鳴る → 一度時間を置いて冷静に話す
- 他人の前で叱る → 個別面談の場を設ける
- 人格を否定する言葉を使う → 行動や事実に焦点を当てる
- 叱りっぱなしにする → フォローアップと再評価を行う
まとめ
適切な叱り方は、単にミスを正すだけではなく、部下の成長を後押しし、上司との信頼関係を強化する。
感情をコントロールし、プライバシーを守り、論理的に説明する。さらに、叱った後のフォローを忘れなければ、部下は安心して改善に取り組める。
管理職にとって「叱る力」は、組織を成長させる重要なマネジメントスキルである。